日々の暮らしと時々の数学

くだらないチラ裏スペース。時々数学のことを書く。

有限体F_2,F_4,F_8,F_16の構造決定

前回の予告通り、\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_4,\dots ,\mathbb{F}_{64}について述べる。
タイトルの通り、\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_4,\dots ,\mathbb{F}_{16}に関しては構造に踏み込むが、
\mathbb{F}_{32},\mathbb{F}_{64}は生成元の満たす最小多項式を1つ求める程度にする。
\mathbb{F}_4はそこそこ例として出てきやすいが、
\mathbb{F}_8はあまり見ないので、これを一番詳しく紹介する。

また、アルティン=シュライヤー拡大やクンマー拡大の理論を利用する
こともあるが、知らなくても分かる範囲のことしかやらない。
またこれらについては補足的に次回以降に
ガロアコホモロジーを用いた証明をつける(予定)。

\mathbb{F}_2=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}である。
それ以降について考える。
また\overline{\mathbb{F}}_2を固定する。

\mathbb{F}_4について

3つのアプローチがある。
1つ目としては、x^4-x=x(x-1)(x^2+x+1)の最小分解体だから、
x^2+x+1\mathbb{F}_2上の分解体になり、
その根 \omega\in \overline{\mathbb{F}}_2
要は1の原始3乗根を添加した体が\mathbb{F}_4である。

したがって、\mathbb{F}_4=\{ 0,1,\omega ,{\omega}^2\} となる。
\omegaの演算については\mathbb{Q}上のそれとは異なるが、
考え方は一緒で、ほとんど符号を無視するだけなので省略する。
もしくは、商をとる順番を換える典型的な方法によって
\mathbb{F}_2[ x] /(x^2+x+1)\cong \mathbb{Z}[ x] /(2,x^2+x+1)\cong\mathbb{Z}[ \omega] /(2)
と捉えてもよい。
ここでいう右端の\omegaは通常の\omega\in\mathbb{C}の意味である。


このx^2+x+1という既約多項式を見つけるには
他に2つの考え方があり、
1つはフェルマーの小定理から\mathbb{F}_2の元は常にx^2+x=0なので、
x^2+x+1\mathbb{F}_2上の根を持たず、既約であるというもの。

もう1つは、標数2の体上の2次拡大だから、アルティン=シュライヤー拡大で、
x^2-x-aの形で根を添加すればよい、ということだが、
a=0は明らかに駄目だからx^2-x-1=x^2+x+1が求まる。

\mathbb{F}_8について

\mathbb{F}_2上の3次既約多項式を見つければよい。
前回の記事によると、それは2つあるが、
つまりは\mathbb{F}_8\mathbb{F}_2以外の部分体がないので、
\mathbb{F}_2の元2個を除いた6個の元が3個ずつ組になり、
2つの既約多項式を構成している、ということである。


これも2つの考え方がある。
1つはスタンダードにx^8-x因数分解するやり方だが、
取り扱いにくいのでもう1つの考え方をする。


3次の既約多項式を考える場合によく用いられる方法であるが、
可約であるとすれば1次の因子を含むので、\mathbb{F}_2上に根を持つ。
逆に既約であれば根を持たない。

これと、先の議論の2つ目の考え方を利用すると、
x(x^2-x)+1=x^3+x^2+1および(x+1)(x^2-x)+1=x^3+x+1
既約だと分かる。
そしてモニックな既約多項式は2つしかないから、これですべてである。


前者の根の1つを \alpha \in \overline{\mathbb{F}}_2とする。
そのとき他の根は{\rm Frob}_2で移りあう者たちだから
{\alpha}^2,{\alpha}^4={\alpha}^2+{\alpha}+1である。

このとき、後者の根はx^2-xx=0,1ともに
根に持つことに注意すると、多項式の構成の仕方から
前者の根に+1したものたちであることが分かる。

ゆえに、\beta =\alpha +1であるようにとれるので、そうとる。
すると、{\rm Frob}_2を考えることで、
{\beta}^i={\alpha}^i+1\ (i=1,2,4)が得られる。


いま、|\mathbb{F}_8^{\times}|=7素数なので、
1を除き、乗法群の元はすべて原始根である。
\alphaを原始根として、\betaをべきとして表示しよう。

{\alpha}^3+{\alpha}^2+1=0なので、
{\beta}^2={\alpha}^2+1={\alpha}^3={\alpha}^{10}である。
よって\beta ={\alpha}^5がわかる。
これから積と商については演算が簡単に出来る。

また、和や差についても、
{\beta}^i={\alpha}^i+1\ (i=1,2,4)から
\{ 1,\alpha ,{\alpha}^2\}を基底とした表示が
すべての元について得られているから、これから簡単にわかる。

以上から、
\mathbb{F}_8=\{ 0,1,\alpha ,{\alpha}^2,{\alpha}^4,\beta ,{\beta}^2,{\beta}^4\}であって、
\alphaおよびその累乗の形のものたちはx^3+x^2+1の根、
\betaおよびその累乗の形のものたちはx^3+x+1の根である。
そして{\beta}^i={\alpha}^i+1\ (i=1,2,4)が成立しており、
\alphaを原始根としたときの各元の累乗による表示と、
\{ 1,\alpha ,{\alpha}^2\}を基底とした線型和の表示は

{\alpha}^4 \beta {\beta}^2 {\beta}^4
累乗 {\alpha}^4 {\alpha}^5 {\alpha}^3 {\alpha}^6
線型和 {\alpha}^2+{\alpha}+1 \alpha +1 {\alpha}^2+1 {\alpha}^2+{\alpha}

となる。

\mathbb{F}_{16}について

アルティン=シュライヤーを用いるのが最も分かりやすかったので、
そうしたのち、異なる考え方を提示する。

\mathbb{F}_8同様にx^{16}-x因数分解するのは
骨が折れるので、このやり方ではやらない。


拡大\mathbb{F}_{16}|\mathbb{F}_4標数2の体同士の2次拡大なので、
x^2-x-\omega ,\, x^2-x-{\omega}^2の(どっちでもよいしどっちともでもよいが)
根を添加して得ることができる。

前者の根を\mu\in \overline{\mathbb{F}}_2としよう。
また、\sigma ={\rm Frob}_2:\mathbb{F}_{16}\rightarrow \mathbb{F}_{16}とする。
すると、\mathbb{F}_4\{ 1,{\sigma}^2\} による固定体だということに注意すると、
もう一方の根は{\sigma}^2(\mu )={\mu}^4だと分かる。

したがって、x^2-x-\omega =(x-\mu )(x-{\mu}^4)である。
これに対し多項式へのガロア群の作用として\sigmaを作用させれば
x^2-x-{\omega}^2=(x-{\mu}^2)(x-{\mu}^8)が分かる。

以上のことから\mu\mathbb{F}_2上の最小多項式
(x^2-x-\omega )(x^2-x-{\omega}^2)=x^4+x+1ということが分かった。

この\muが原始根になっているか考える。
{\mu}^5は1の3乗根なので1,\omega ,{\omega}^2のいずれかになるはずだが、
実際に{\mu}^5={\mu}(\mu +1)=\omegaとなる。
よって原始根になっていることが分かる。


これから、\mu\omega ,\mu{\omega}^2の最小多項式を計算すれば
既約多項式の列挙は終わる。
前者について、x^2-x-\omegaxの代わりにx{\omega}^2
を代入したものが\mu\,\omega\mathbb{F}_4上での最小多項式だから、
x^2+\omega x+1\quad (1)である。
これの根でないその他2つの\mathbb{F}_2上の共役な元の
\mathbb{F}_4上の最小多項式は、(1)に\sigmaを作用させればよいから、
x^2+{\omega}^2x+1である。

よって、\mu\omega\mathbb{F}_2上の最小多項式
(x^2+\omega x+1)(x^2+{\omega}^2x+1)=x^4+x^3+x^2+x+1
である。

同様に考えると、\mu {\omega}^2の最小多項式
\{ (\omega x)^2+(\omega x)+\omega\}\{ ({\omega}^2 x)^2+({\omega}^2 x)+{\omega}^2\} =x^4+x^3+1
が得られる。


以上から、\nu =\mu\omega ,\rho =\mu{\omega}^2とおいて、
\mathbb{F}_8=\{ 0,1,\omega ,{\omega}^2,\mu ,{\mu}^2,{\mu}^4,{\mu}^8,\nu ,{\nu}^2,{\nu}^4,{\nu}^8,\rho ,{\rho}^2,{\rho}^4,{\rho}^8\}であって、
\muおよびその累乗の形のものたちはx^4+x+1の根、
\nuおよびその累乗の形のものたちはx^4+x^3+x^2+x+1の根、
\rhoおよびその累乗の形のものたちはx^4+x^3+1の根である。
また、\omega ={\mu}^2+\mu ={\mu}^5が成立する。
だから、\nu ={\mu}^6,\rho ={\mu}^{11}と表現することもできる。


この3つの既約多項式は次のようにして求めることもできる。
4次の多項式は1次の因子を持つか、2次の因子を持つか、既約である。
既約な2次多項式の積とは(x^2+x+1)^2しかないことを考えると、
4次多項式のうち、x=0,1を根にもたず、(x^2+x+1)^2
異なる多項式を求めればよい。
また、x^{15}-1は因数にx^5-1を持つから、
x^4+x^3+x^2+x+1がその中に含まれている。

また、\mathbb{F}_4上の2次既約多項式を見つける際も、
アルティン=シュライヤーを使わずに、
x=0,1を根に持たない多項式を構成するいつものやり方で
x^2-x-\omegaを作ってみて、これが\omega ,{\omega}^2
根に持たないことを確かめればよい。

\mathbb{F}_{32}について

5次の既約多項式を考えると、
やはり2次以下の既約多項式で割り切れないことを確かめればよい。

そこで、(x^3-1)(x^2-x)+1=x^5+x^4+x^2+x+1を考えると、
x^2-xx=0,1を根に持ち、
(x^3-1)が唯一の2次既約多項式x^2+x+1で割り切れるから、
これが欲しい5次の既約多項式の1つである。

5次拡大は真の中間体がないから、0,1の2つの元を除いた30個の元が
5つずつ計6個組になって5次の既約多項式を構成している。
残りの5つの5次既約多項式はここでは考えない。

この議論で分かったことは、
\mathbb{F}_{32}\cong\mathbb{F}_2[ x] /(x^5+x^4+x^2+x+1)である。

\mathbb{F}_{64}について

この場合は\mathbb{F}_{64}|\mathbb{F}_4が3次拡大で、
\omega \in \mathbb{F}_4だから、クンマー理論が使える。
ゆえに、1の原始9乗根を\mathbb{F}_2に添加した体が\mathbb{F}_{64}であると分かる。

原始9乗根はx^9-1からx^3-1の根を除いたものなので、
x^6+x^3+1である。
よって、\mathbb{F}_{64}\cong\mathbb{F}_2[ x] /(x^6+x^3+1)である。

これは、63が9の倍数だから、
x^{63}-1x^9-1を因数にもつことからも分かる。



以上だらだらと書いてきたが、
x^q-x因数分解すればよいことは分かるけども、
それを考えることはqが大きいと容易ではないから、
このようにしてあれこれ工夫した方がずっと良いだろう。