有限体F_2,F_4,F_8,F_16の構造決定
前回の予告通り、について述べる。
タイトルの通り、に関しては構造に踏み込むが、
は生成元の満たす最小多項式を1つ求める程度にする。
はそこそこ例として出てきやすいが、
はあまり見ないので、これを一番詳しく紹介する。
また、アルティン=シュライヤー拡大やクンマー拡大の理論を利用する
こともあるが、知らなくても分かる範囲のことしかやらない。
またこれらについては補足的に次回以降に
ガロアコホモロジーを用いた証明をつける(予定)。
である。
それ以降について考える。
またを固定する。
について
3つのアプローチがある。
1つ目としては、の最小分解体だから、
の上の分解体になり、
その根 、
要は1の原始3乗根を添加した体がである。
したがって、となる。
の演算については上のそれとは異なるが、
考え方は一緒で、ほとんど符号を無視するだけなので省略する。
もしくは、商をとる順番を換える典型的な方法によって
と捉えてもよい。
ここでいう右端のは通常のの意味である。
このという既約多項式を見つけるには
他に2つの考え方があり、
1つはフェルマーの小定理からの元は常になので、
は上の根を持たず、既約であるというもの。
もう1つは、標数2の体上の2次拡大だから、アルティン=シュライヤー拡大で、
の形で根を添加すればよい、ということだが、
は明らかに駄目だからが求まる。
について
上の3次既約多項式を見つければよい。
前回の記事によると、それは2つあるが、
つまりはに以外の部分体がないので、
の元2個を除いた6個の元が3個ずつ組になり、
2つの既約多項式を構成している、ということである。
これも2つの考え方がある。
1つはスタンダードにを因数分解するやり方だが、
取り扱いにくいのでもう1つの考え方をする。
3次の既約多項式を考える場合によく用いられる方法であるが、
可約であるとすれば1次の因子を含むので、上に根を持つ。
逆に既約であれば根を持たない。
これと、先の議論の2つ目の考え方を利用すると、
およびは
既約だと分かる。
そしてモニックな既約多項式は2つしかないから、これですべてである。
前者の根の1つを とする。
そのとき他の根はで移りあう者たちだから
である。
このとき、後者の根はがともに
根に持つことに注意すると、多項式の構成の仕方から
前者の根にしたものたちであることが分かる。
ゆえに、であるようにとれるので、そうとる。
すると、を考えることで、
が得られる。
いま、は素数なので、
1を除き、乗法群の元はすべて原始根である。
を原始根として、をべきとして表示しよう。
なので、
である。
よってがわかる。
これから積と商については演算が簡単に出来る。
また、和や差についても、
から
を基底とした表示が
すべての元について得られているから、これから簡単にわかる。
以上から、
であって、
およびその累乗の形のものたちはの根、
およびその累乗の形のものたちはの根である。
そしてが成立しており、
を原始根としたときの各元の累乗による表示と、
を基底とした線型和の表示は
元 | ||||
---|---|---|---|---|
累乗 | ||||
線型和 |
となる。
について
アルティン=シュライヤーを用いるのが最も分かりやすかったので、
そうしたのち、異なる考え方を提示する。
同様にを因数分解するのは
骨が折れるので、このやり方ではやらない。
拡大は標数2の体同士の2次拡大なので、
の(どっちでもよいしどっちともでもよいが)
根を添加して得ることができる。
前者の根をとしよう。
また、とする。
すると、はによる固定体だということに注意すると、
もう一方の根はだと分かる。
したがって、である。
これに対し多項式へのガロア群の作用としてを作用させれば
が分かる。
以上のことからの上の最小多項式は
ということが分かった。
このが原始根になっているか考える。
は1の3乗根なのでのいずれかになるはずだが、
実際にとなる。
よって原始根になっていることが分かる。
これから、の最小多項式を計算すれば
既約多項式の列挙は終わる。
前者について、のの代わりに
を代入したものがの上での最小多項式だから、
である。
これの根でないその他2つの上の共役な元の
上の最小多項式は、(1)にを作用させればよいから、
である。
よって、の上の最小多項式は
である。
同様に考えると、の最小多項式、
が得られる。
以上から、とおいて、
であって、
およびその累乗の形のものたちはの根、
およびその累乗の形のものたちはの根、
およびその累乗の形のものたちはの根である。
また、が成立する。
だから、と表現することもできる。
この3つの既約多項式は次のようにして求めることもできる。
4次の多項式は1次の因子を持つか、2次の因子を持つか、既約である。
既約な2次多項式の積とはしかないことを考えると、
4次多項式のうち、を根にもたず、と
異なる多項式を求めればよい。
また、は因数にを持つから、
がその中に含まれている。
また、上の2次既約多項式を見つける際も、
アルティン=シュライヤーを使わずに、
を根に持たない多項式を構成するいつものやり方で
を作ってみて、これがを
根に持たないことを確かめればよい。
について
5次の既約多項式を考えると、
やはり2次以下の既約多項式で割り切れないことを確かめればよい。
そこで、を考えると、
がを根に持ち、
が唯一の2次既約多項式で割り切れるから、
これが欲しい5次の既約多項式の1つである。
5次拡大は真の中間体がないから、0,1の2つの元を除いた30個の元が
5つずつ計6個組になって5次の既約多項式を構成している。
残りの5つの5次既約多項式はここでは考えない。
この議論で分かったことは、
である。
について
この場合はが3次拡大で、
だから、クンマー理論が使える。
ゆえに、1の原始9乗根をに添加した体がであると分かる。
原始9乗根はからの根を除いたものなので、
である。
よって、である。
これは、63が9の倍数だから、
がを因数にもつことからも分かる。
以上だらだらと書いてきたが、
を因数分解すればよいことは分かるけども、
それを考えることはqが大きいと容易ではないから、
このようにしてあれこれ工夫した方がずっと良いだろう。