日々の暮らしと時々の数学

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有限体上の既約多項式の数

いろいろあって有限体を見ていたら、
Wikipedia既約多項式のページを見ていたら、
その有限体上の既約多項式の数についての項目があった。

それは

◆定理◆
有限体\mathbb{F}_q上のn次のモニックな既約多項式の数は、
\displaystyle \frac{1}{n}\sum_{d|n}\mu \left( \frac{n}{d}\right) q^d
で与えられる。ただし、\mu (n)メビウス関数である。

というものである。

これの証明が、arXiv:1001.0409にある。
(Sunil K. Chebolu, Jan Minac,Counting irreducible polynomials
over finite fields using the inclusion-exclusion principle)

今回はこの証明を紹介する。

使う議論は有限体に関する基本的な知識のみで、
この証明について著者は
「驚くべきことに、今回の記事のシンプルな議論はいくらかの
専門家は知っているかもしれないが、教科書には載っていない」
と書いている。

確かにシンプルな議論だった。


証明に入る前に(これも上記の記事に書いてあることだが)
この定理はq=pの場合(つまり素数のとき)には
ガウス(1777-1855)が証明したことらしい。

さらに、メビウスの反転公式を用いたクラシカルな証明は
あの、アイルランド・ローゼンの有名な教科書に書いてあるそうだ。
(恥ずかしながらきちんと読んだことはない)


添え字が極めて読みにくいことが判明したため、
\mathbb{F}_{q^n}のことを\mathbb{F}\langle q^n\rangle と書くことにする。

証明するに当たり、以下の基本的な有限体の知識と
メビウス関数の定義を確認する。

  1. 有限体の元の数は素べきである。
  2. 有限体\mathbb{F}\langle q^n\rangleは、ある\mathbb{F}_q上のn次の既約多項式p(x)の最小分解体である。
  3. \mathbb{F}_q上の既約多項式は重根をもたない。
  4. 異なる\mathbb{F}_q上のモニックな既約多項式は共通根をもたない。
  5. \mathbb{F}\langle q^a\rangle\subset \mathbb{F}\langle q^b\rangle\Leftrightarrow a|bである。
  6. 有限体はその元の数により、同型を除き一意に定まる。

という6つである。

1.と5.は拡大次数から簡単にわかる。
2.は有限体同士の拡大はガロア拡大であり、単拡大である。
その最小多項式をとれば、共役な根はフロベニウスで与えられるから、
すべての根を含む。よって最小分解体になる。
3.は先のガロアなので分離拡大であることによる。
ガロアと分離がどっちを先に示すかは定義や議論次第)
4.は一般に最小多項式がただ一つに決まるということに他ならない。
(もとの論文には"monic"という言葉が抜けているが、必要だろう)
6.はx^q-xの最小分解体でなければならないことから従う事実である。

また、メビウス関数とは

◆定義◆
メビウス関数\mu :\mathbb{Z}_{>0}\to \{ 0,\pm 1\}
\displaystyle \mu (n)=\left\{ \begin{array} {}0 &(n \mbox{ has a squared prime factor}) \\ (-1)^k & (\mbox{otherwise})\end{array}\right.
で、ここでkは素因数の数を表す。

という定義である。

証明

これらを認めれば証明ができる。
<証明>
代数閉包\overline{\mathbb{F}}_qを固定した下で考える。
n=1のときは明らかなので、n>1としよう。
{\cal P}_n\mathbb{F}_q上のn次のモニック既約多項式全体とする。
{\cal R}_n\subset \mathbb{F}\langle q^n\rangle{\cal P}_nの元の根全体とする。
根が全て\mathbb{F}\langle q^n\rangleに含まれるのは2.と6.による。

3.と4.によれば、
n|{\cal P}_n|=|{\cal R}_n|
であるから後者を考えることにする。
ここで、{\cal R}_nについて、
{\cal R}_n=\{ \alpha \in \mathbb{F}\langle q^n\rangle|[ \mathbb{F}_q(\alpha ):\mathbb{F}_q] =n\}
であり、[ \mathbb{F}_q(\alpha ):\mathbb{F}_q] =nは、
\alpha\mathbb{F}\langle q^n\rangleに含まれ、同時に真部分集合に含まれないことと同値である。
さらに、それは\mathbb{F}\langle q^n\rangleに含まれ、極大な真部分集合に含まれないことと言える。

いま、n素因数分解n=u^av^bw^c\cdotsという形だとする。
すると、極大な真部分集合たちは
F_u=\mathbb{F}\langle q^{n/u}\rangle ,F_v=\mathbb{F}\langle q^{n/v}\rangle ,F_w=\mathbb{F}\langle q^{n/w}\rangle ,\dots
である。

これらのことから、|{\cal R}_n|=|(F_u\cup F_v\cup F_w\cup\cdots )^c|である。
このとき、4.からF_u\cap F_v=\mathbb{F}\langle q^{n/uv}\rangle ,F_u\cap F_v\cap F_w=\mathbb{F}\langle q^{n/uvw}\rangle などとなるから、
和集合の元の数に関する法則(inclusion-exclusion principle)*1によって
|{\cal R}_n|=q^n
-q^{n/u}-q^{n/v}-q^{n/w}-\cdots
+q^{n/uv}+q^{n/vw}+q^{n/wu}+\cdots
\cdots
(-1)^kq^{n/uvw\cdots}
が得られる。

これをメビウス関数を用いて表示すれば定理が得られる。
(となっているが、この最後のところをもう少しコメントすると、
約数d|nについてqのべきにd=\frac{n}{n/d}
現われていて、\frac{n}{d}が素因数の1乗の積になっているもの
だけを考えたいので、確かに平方因子を持つものは消えてくれるし、
また、そうでない場合、符号は\frac{n}{d}の素因子の数の
奇偶によって決まっているから、確かに合っている。)

以上で定理は証明された。
<証明終了>


次回以降は、これと照らし合わせて\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_4,\dots ,\mathbb{F}_{16}
\mathbb{F}_3,\mathbb{F}_9あたりの構造をはっきりさせる。

*1:要はベン図で3つの和集合を考えたとき、それぞれの集合の元の数を足して、 2つの集合の共通部分を引いて、引きすぎた3つの共通部分を足して、というやり方の一般型。