日々の暮らしと時々の数学

くだらないチラ裏スペース。時々数学のことを書く。

数学的な3倍角の公式の覚え方はチェビシェフがいい

いつも、3倍角の公式がいまいち覚えられない。
確認するまでもないが、3倍角の公式は次である:

◆3倍角の公式◆
{\cos{3\theta}=4\cos^3{\theta}-3\cos{\theta} \\
\sin{3\theta}=3\sin{\theta}-4\sin^3{\theta}}

これがいつもどこの係数が3でどこが4か、
正負の符号どっちがどっちか分からなくなってしまう。

これを論理的に思い出せる方法を考える。

たとえば正弦定理は初め、{\displaystyle 2R=\frac{a}{\sin{A}}}の分数の分母分子が分からなったが、
これは両者が長さの関係式であることや、
辺の長さより外接円の直径の方が明らかに長いことを
理解してからは、迷わなくなった。

このように、覚えるなら覚えるで正確に覚えたい。
符号と係数の組を間違わない個人的な覚え方のルールを構築しようと考えたところ、
チェビシェフ多項式の基本性質に帰着すると良いと気づいた。


{\cos{3\theta}}はチェビシェフ多項式の性質に結び付けよう。

定義は面倒なのでwikipediaなど参照。
まずチェビシェフ多項式{T_n(x)}の漸化式は、

{
\cos{(n+1)\theta}+\cos{(n-1)\theta}=2\cos{n\theta}\cos{\theta}
}

という角の平均{n\theta}、平均からのずれ{\theta}の和積により、

{
T_{n+1}(x)=2x\, T_n(x)-T_{n-1}(x)
}

と言う風に得られた。(ものすごく大事)

これと、{T_0(x)=\cos{(0\cdot \theta)}=1,T_1(x)=x}に注意して、
{T_n(x)}の最高次であるn次の係数は{2^{n-1}}であるとわかる。(ただし{n>0}
また、nの奇偶に合わせた奇関数と偶関数となることがわかる。


だから、{\cos{3\theta}}{\cos{\theta}}多項式だと思うと
3次と1次の項しか出てこず、
({\cos^3{\theta}}の係数){=2^2=4}
と思いだせる。

さらに、チェビシェフ多項式の性質として、
{\cos{(n\cdot 0)}=1}だから、{T_n(1)=1}、言い換えると
各次数の係数を足していくと1となる、というものがある。

だから、
({\cos{\theta}}の係数){+4=1}
によって、{\cos{\theta}}の係数が-3と思いだせる。


そして、{\sin{3\theta}}については
{\displaystyle \theta\to\frac{\pi}{2}-\theta}によって、
符号を入れ替え、{\cos\leftrightarrow\sin}により、
単純に導ける。


以上の覚え方をまとめよう:

◆チェビシェフ多項式の性質◆
{T_{n+1}(x)=2x\, T_n(x)-T_{n-1}(x)}(n+1とn-1の和積)により、

  • 最高次であるn次の係数は{2^{n-1}}(n>0)
  • {T_n(x)}は奇関数と偶関数が繰り返され、nの奇偶と一致

また、{\theta =0}を考えることで、

  • {T_n(1)=1}

これを用いて、

◆3倍角の公式の覚え方◆

  1. {\cos{3\theta}}{\cos{\theta}}の3次の奇関数
  2. 3次の係数は{2^{3-1}=4}である。
  3. 1次の係数は{T_n(1)=1}により1-4=-3
  4. sinは{\displaystyle \theta\to\frac{\pi}{2}-\theta}により符号とcos、sinを入れ替える


これなら高校生にも勧められそう。
自分としてはこれが最もしっくりきた。


11/28 追記
いままでやってきたことを振り返ってみると、
余弦の和積がポイントになっていた。

だから、単純にその和積を使うと、
{\cos{3\theta}+\cos{\theta}=2\cos{2\theta}\cos{\theta}}
なので、
{\cos{3\theta}=\cos{\theta}(2\cos{2\theta}-1)}
{=\cos{\theta}(4\cos^2{\theta}-3)}
とできる。

あれ・・・?これが一番楽じゃね・・・?
と思ったが、これは公式を思い出すというより
導出する方だ。

係数をぱっと思い浮かべるには至らない。

やはり、
「3次奇関数で最高次の係数は2倍角の2倍で係数の和が1だから」
という呪文を唱えた方が自分の中では早い。

ただ、{\cos{3\theta}=\cos{\theta}(2\cos{2\theta}-1)}の形で
和積を一気に書きだせるようになれば、一行無駄にするだけで導出できるので、
これはこれでかなり有効だ。