日々の暮らしと時々の数学

くだらないチラ裏スペース。時々数学のことを書く。

有限体F_2,F_4,F_8,F_16の構造決定

前回の予告通り、\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_4,\dots ,\mathbb{F}_{64}について述べる。
タイトルの通り、\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_4,\dots ,\mathbb{F}_{16}に関しては構造に踏み込むが、
\mathbb{F}_{32},\mathbb{F}_{64}は生成元の満たす最小多項式を1つ求める程度にする。
\mathbb{F}_4はそこそこ例として出てきやすいが、
\mathbb{F}_8はあまり見ないので、これを一番詳しく紹介する。

また、アルティン=シュライヤー拡大やクンマー拡大の理論を利用する
こともあるが、知らなくても分かる範囲のことしかやらない。
またこれらについては補足的に次回以降に
ガロアコホモロジーを用いた証明をつける(予定)。

\mathbb{F}_2=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}である。
それ以降について考える。
また\overline{\mathbb{F}}_2を固定する。

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有限体上の既約多項式の数

いろいろあって有限体を見ていたら、
Wikipedia既約多項式のページを見ていたら、
その有限体上の既約多項式の数についての項目があった。

それは

◆定理◆
有限体\mathbb{F}_q上のn次のモニックな既約多項式の数は、
\displaystyle \frac{1}{n}\sum_{d|n}\mu \left( \frac{n}{d}\right) q^d
で与えられる。ただし、\mu (n)メビウス関数である。

というものである。

これの証明が、arXiv:1001.0409にある。
(Sunil K. Chebolu, Jan Minac,Counting irreducible polynomials
over finite fields using the inclusion-exclusion principle)

今回はこの証明を紹介する。

使う議論は有限体に関する基本的な知識のみで、
この証明について著者は
「驚くべきことに、今回の記事のシンプルな議論はいくらかの
専門家は知っているかもしれないが、教科書には載っていない」
と書いている。

確かにシンプルな議論だった。

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2べきの数と3べきの数は隣接するか?

過去の記事で、自然対数log(2)を計算した。
br-h2gk.hatenablog.com
そのときの2つめの方法について、キーポイントとなっていたのは、
2と3と5のみを素因数にもつ連続する2数の組を考えることだった。

もし、これがもっともっと大きい数で見つかるなら、
よりよい近似の分数を見つけることができる。

そこで、まず最も簡単と思われる場合の

◆問題◆
3^m-2^n=\pm 1自然数解を見つけよ。

を考えてみよう。

注意として、隣接する2数は互いに素だから、
2と3両方を素因数にもつもの同士などは隣接しない。

まず、単純に(3^m,2^n)=(3,4),(9,8)というものが見つかるが、
2のべきと3のべきを並べていくと、これらが隣接する場合は
見当たらない。

そこで、これ以外に解はないのか、ということを考えよう。

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導関数が不連続なものとは?(その2)

今回は前回に引き続き、導関数が不連続になってしまう
場合について考えよう。

前回は、導関数が不連続なら、それはその点の近傍の
左右のいずれかで振動しているしかない、ということが分かった。

また、その例として\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x}}という典型的なものを考えた。
さて、この例を振り返った時、
導関数有界な範囲で振動しているが、
次の問題はどうだろうか。

◆問題◆
実数全体で定義された関数f(x)が以下のような条件を満たすものはあるか?
あるなら例を構成し、ないならないことを証明せよ:

  • f(x)は実数全体にわたって微分可能である。
  • f'(x)x=0を除き連続である。
  • f'(x)x=0の任意の近傍上で有界でない。

答えはこの下。

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導関数が不連続なものとは?(その1)

直感的には正しそうな問題

◆問題1◆
Uを{\mathbb{R}}上の空でない開集合として、{a\in U}を任意にとる。
関数{f:U\longrightarrow \mathbb{R}}{x=a}の近傍で微分可能で、
導関数{x=a}の近傍で{x=a}を除き連続だと分かっている。
このとき、導関数{x=a}でも連続だろうか。

を考えよう。

実は、この答えはNoである。
{\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x}+x}(x\neq 0),f(0)=0}
実数全体で微分可能であって、特に{f'(0)=1}であるが、そのまわりで
無限に振動していて{x=0}で連続ではない。
(この先の命題の証明のステップ2.がイメージできるように
xを足しているが、普通はxを省いたものが挙げられる)

グラフは青がこのグラフで、緑がx=0における接線である。
f:id:tekitou5353:20151208130803g:plain:h400

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ln(2)の下5桁を手計算しよう(その2)

前回の命題を用いると

◆評価4◆
{\displaystyle \frac{14}{31}+\frac{10}{49}+\frac{6}{161}+\frac{14}{3\cdot 31^3}+\frac{10}{3\cdot 49^3}<\ln{2}}
誤差は{\displaystyle \frac{7}{5\cdot 31^4\cdot 15}+\frac{5}{5\cdot 49^4\cdot 24}+\frac{1}{161^2\cdot 80}}未満

が得られる。

まず、自分の中での「手計算できる」の基準をはっきりしておく。
基本的に積は3桁同士まで、商も割る数は極力3桁以内。
ただし、152000のように、本質的に計算量がそれらと変わらないものは除く。

そこで、3次以上の細かい計算を上手に評価し、
計算を省略する。

次の評価を試みる。

◆評価5◆

  1. {\displaystyle 1.5645\cdot 10^{-4}<\frac{14}{3\cdot 31^3}=1.566468\cdots \times 10^{-4}<1.571\cdot 10^{-4}}
  2. {\displaystyle 0.2833\cdot 10^{-4}<\frac{10}{3\cdot 49^3}=0.283328\cdots \times 10^{-4} <0.2838\cdot 10^{-4}}
  3. {\displaystyle \frac{7}{5\cdot 31^4\cdot 15}+\frac{5}{5\cdot 49^4\cdot 24}+\frac{1}{161^2\cdot 80}=5.905\cdots\times 10^{-7}<6.5\cdot 10^{-7}}


ゆえに
{\displaystyle \frac{14}{31}+\frac{10}{49}+\frac{6}{161}+1.8478\cdot 10^{-4}<\ln{2}<\frac{14}{31}+\frac{10}{49}+\frac{6}{161}+1.8613\cdot 10^{-4}}
が言える。
これから\ln{2}=0.69314\cdotsが分かる。

つまり、誤差項を見るに、1.と2.が正確に計算できたなら
少なくとも10^{-6}以内に収めることができる。

この評価での誤差は、
1.は6.5\cdot 10^{-7}
2.は0.5\cdot 10^{-7}
である。

1.のうまい評価が出来なかったので、合わせて1.4\cdot 10^{-6}未満、となった。
それぞれ見て行こう。

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