日々の暮らしと時々の数学

くだらないチラ裏スペース。時々数学のことを書く。

導関数が不連続なものとは?(その2)

今回は前回に引き続き、導関数が不連続になってしまう
場合について考えよう。

前回は、導関数が不連続なら、それはその点の近傍の
左右のいずれかで振動しているしかない、ということが分かった。

また、その例として\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x}}という典型的なものを考えた。
さて、この例を振り返った時、
導関数有界な範囲で振動しているが、
次の問題はどうだろうか。

◆問題◆
実数全体で定義された関数f(x)が以下のような条件を満たすものはあるか?
あるなら例を構成し、ないならないことを証明せよ:

  • f(x)は実数全体にわたって微分可能である。
  • f'(x)x=0を除き連続である。
  • f'(x)x=0の任意の近傍上で有界でない。

答えはこの下。


答え:存在する。

追記
めちゃくちゃ簡単な例があります。
なんで\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x}}導関数
有界になってしまったか、さえ考えれば終わりです。

そう、答えとして\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x^2}}があります。
グラフは
f:id:tekitou5353:20151209180555g:plain:h350
であり、導関数のグラフは
f:id:tekitou5353:20151209180613g:plain:h350
である。

しかもこれは、原点を除き無限回微分可能となっている。




以下ではごちゃごちゃやっていますが、
簡単な事に気づかなかった様を生温かく見守ってください:

前回の\displaystyle f(x)=x^2\sin{\frac{1}{x}}という例が
なぜ導関数が振動しているにもかかわらず、x=0微分可能だったのか。
それは、\displaystyle f(x)=x^2\times (\mbox{有界な変な関数})という
形をしていることに由来している。
つまり、ローカルでは不穏な動きをする
有界な関数が大切なのである。

そして、そのローカルで不穏な動きについて、
接線の傾きは任意に大きく出来うることが考えられる。

だから、次のような構成をすればうまくいくことが分かる。
x=0の近傍で病的な振る舞いをする有界な関数c(x)を用いて、
{\Delta}(x)=x^2c(x)(x\neq 0),{\Delta}(0)=0という形を
最終的に作る。

Step1
まず、次のような性質をもつ関数を作る。

  • 区間\displaystyle\left[ \frac{1}{n+1},\frac{1}{n}\right] において微分可能で\displaystyle x=\frac{1}{n+1}微分係数(n+1)^3であり、\displaystyle x=\frac{1}{n}微分係数-n^3である。
  • 端点を除く区間では正で、端点で0となる。

例えばn=1のときの場合はこのような調子である。
f:id:tekitou5353:20151208210225g:plain:h350

このようなキャップ状の関数を作り、これらの区間で(-1)^nを掛けて互い違いにしながら貼り合わせる。
これにより、区間(0,1] について定めたが、区間(-\infty ,0 ] では常に0、
区間(1,\infty )では(1-x)によって接続する。
これらの張り合わせはどれも滑らかである。
こうやって定めた関数をr(x)とおく。
このグラフは次のようになる。
f:id:tekitou5353:20151208210943g:plain:h350

Step2
つぎに、どのn\in \mathbb{N}においても\displaystyle x=\frac{1}{n}微分係数
変えないで有界性を保証するように調整する。
f:id:tekitou5353:20151208211913g:plain:h350

これにより、{\Delta}(x)=x^2c(x)(x\neq 0),{\Delta}(0)=0を作り出す。
すると、x\neq 0において{\Delta}'(x)=x^2c'(x)+2xc(x)だが、
まず後ろの項はx\times (\mbox{有界な関数})なので悪さをせず、
x=0の十分近傍では無視できる。
そして手前の項は、\displaystyle \left( \frac{1}{n}\right)^2c'\left(\frac{1}{n}\right) = (-1)^{n+1}nとなり、
有界でない振動を実現する。
このようにして完成した関数のグラフは以下のようになる。
f:id:tekitou5353:20151208211556g:plain:w350
緑のグラフは\pm x^2である。
なんかx=1でなめらかにつながっていないように見えるが、
ちゃんと拡大すればなめらかに見える。


これに基づいて、それぞれのステップを実現する関数
(すでに上でイメージ図として例に挙げているもの)を
構成していこう。


まず、Step1のもの。
構成するにあたり、まず関数g(x)=(1-nx)\{ (n+1)x-1\}というのを見てみよう。
これが典型的なキャップ型の例だと思うが、左右対称なキャップなので、
端点で微係数の絶対値を違えることができない。

そこで、考えている区間で正となる関数L(x)を掛けてh(x)=g(x)L(x)としてみる。
すると、微係数以外の条件は満たされたままであり、微係数については
積の微分において、端点でgは消えることに注意すると
\displaystyle h'\left( \frac{1}{n}\right) =-n\cdot \frac{1}{n}L\left( \frac{1}{n}\right) =-L\left( \frac{1}{n}\right),
\displaystyle h'\left( \frac{1}{n}\right) =(n+1)\cdot \frac{1}{n+1}L\left( \frac{1}{n+1}\right) =L\left( \frac{1}{n+1}\right)
である。

したがって、\displaystyle L\left( \frac{1}{n}\right) =n^3,\ L\left( \frac{1}{n+1}\right) =(n+1)^3
なる正の値をとる関数を考えればよいので、一次関数で対応できる。
(別に一次関数でなくてもよい)
具体的に計算するならば、
L(x)=-n(n+1)(3n^2+3n+1)x+n(n^3+6n^2+4n+1)
である。


つぎに、Step2のもの。
実はこれ、c(x)=\sin{r(x)}という単純な方法によって、
c'(x)=r'(x)\cos{r(x)}となって、
\displaystyle \frac{1}{n}r(x)は0となっていたから、
自然数の逆数の点で微分係数を変えずに有界に変換できる。
(ちなみにもしStep1で作ったh(x)有界になっていてくれたら
このような変換をかますことはないのだが、
各逆数の区間の中点を考えると有界にはならないことが分かる。
中点ではgからはnの-2乗のオーダーが、
Lからは3乗のオーダーが出てくるから。)


以上より

◆具体例◆
与えられた問に対する具体例として次が挙げられる:
\displaystyle
  {\Delta}(x) = \left\{ \begin{array}{ll}
    \sin{[ (-1)^{n}(1-nx)\{(n+1)x-1\} } L(x) ] & \left( x\in \left[ \frac{1}{n+1},\frac{1}{n}\right] \right) \\
    \sin{(x-1)} & (x>1) \\
    0 & (otherwise)
  \end{array} \right.
で、ここで
L(x)=-n(n+1)(3n^2+3n+1)x+n(n^3+6n^2+4n+1)
である。(グラフは一番下の画像)