日々の暮らしと時々の数学

くだらないチラ裏スペース。時々数学のことを書く。

中線定理の拡張

次のような問題を考える。

◆問題◆
{\triangle {\rm ABC}}において内接円周上に任意の点{\rm P}をとった時、
各頂点までの距離の平方和{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PC}^2}が一定である。
このとき、この三角形はどのような三角形か。

これについて、別件で初等幾何の問題を考えている時に遭遇していたので、
次が有用であることがすぐに閃いた。

◆命題◆
{\triangle {\rm ABC}}において重心をGとするとき、
平面上の任意の点Pに対して
{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PC}^2=3{\rm GP}^2+{\rm GA}^2+{\rm GB}^2+{\rm GC}^2}
が成立する。

これはベクトルで容易に証明できる。

これにより、上記の問は重心と内心が一致するとき、
つまり正三角形であるときだと分かる。

ここまでは別に何もないのだが、よくよく思い返すと
この命題は中線定理の拡張になっていることに気づいた。


中学生の時、

  • 2点からの距離の和は直線に対して対称移動する
  • 2点からの距離の平方和は中線定理で中点からの距離に置き換える

という定石を習った。

つまり、いまは3点からの距離の平方和なので、
重心からの距離に直っているというわけである。

3点からの距離の平方和が分かっているということは、
2点からの距離の平方和もそこから導けるということが予想できる。

実際以下のようにして得ることが出来る:


線分ABの中点をMとする。そしてCをMとしてとる。
いま、上記の命題の証明において、3点があればよく、
別に三角形をなしていることは必要ない。
このとき、重心はやはりMになる。

すると、平面上の任意の点Pに対して
{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PM}^2=3{\rm PM}^2+{\rm AM}^2+{\rm BM}^2}
となるので、
{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2=2{\rm PM}^2+{\rm AM}^2+{\rm BM}^2}
なので、これは中線定理に他ならない。


さらに考えてみたところ、中線定理と重心の基本性質さえ認めてしまえば、
命題は導けることに気がついた。

まず、命題の状況で辺BCの中点をMとして、{\triangle {\rm ABC}}の中線定理から
{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PC}^2={\rm PA}^2+2{\rm PM}^2+2{\rm BM}^2}
を得る。

次に、{\triangle {\rm GBC}}の中線定理から
{2{\rm BM}^2={\rm GB}^2+{\rm GC}^2-2{\rm GM}^2}
よって、
{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PC}^2={\rm PA}^2+2{\rm PM}^2+{\rm GB}^2+{\rm GC}^2-2{\rm GM}^2}

また、線分AGの中点をDとすると、AG:GM=2:1という性質に気をつけて
{\triangle {\rm PAG}}{\triangle {\rm PDM}}の中線定理から
{{\rm PA}^2+{\rm PG}^2=2{\rm PD}^2+2{\rm MG}^2}
{{\rm PM}^2+{\rm PD}^2=2{\rm PG}^2+2{\rm MG}^2}
なので、上の式と下の式の2倍を足すことで、

{{\rm PA}^2+2{\rm PM}^2=3{\rm PG}^2+6{\rm MG}^2}
が得られるので、

{{\rm PA}^2+{\rm PB}^2+{\rm PC}^2={\rm PA}^2+2{\rm PM}^2+{\rm GB}^2+{\rm GC}^2-2{\rm GM}^2}
{=3{\rm PG}^2+{\rm GB}^2+{\rm GC}^2+4{\rm GM}^2}
{=3{\rm PG}^2+{\rm GA}^2+{\rm GB}^2+{\rm GC}^2}
が得られる。

中線定理で{{\rm PA}^2+2{\rm PM}^2}という2倍がかかってしまっている箇所を
処理しているのはなかなかトリッキーなことかもしれない。
ここはStewartの定理を認めればもう少しすんなりいくだろう。
面倒なので(どうせ同じことなので)省略する。